「機動武将まじかる☆呂布リン!」
        第12話 『わたしくんしゅになっちゃった(仮)』Aパート
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        シーン1 董卓の屋敷(地下室)
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        (暗い通路。壁の蝋燭が頼りない明りを灯している)
        (通路の奥から足音と話し声が聞こえてくる)

        (やがて姿を現す董卓と付き従う李儒。歩きながら会話)
        董卓:ふむ・・・で?
        李儒:はい、張遼からの連絡がない所を見ると、奴が敵の手に落ちたのは間違
           いないでしょう
        董卓:そうか
        李儒:いかが致しますか? 張遼を救出する策もありますが
        (董卓、何のためらいもなく答える)
        董卓:いや、その必要はない あれに比べれば、張遼ごときはどうでもよい
        李儒:しかし捨てるには惜しいと思われますが
        董卓:もともとあの時、たまたま拾った物に過ぎぬ そこまでする必要はなか
           ろう・・・捨て置け
        (事務的に答える李儒)
        李儒:左様でございますか ではそのように致します

        董卓:それより状況はどうなっておる
        李儒:予定では一両日中にも稼動可能な状態になります
        (董卓、疑いの目で李儒を見る)
        董卓:真に大丈夫なのであろうな? 前回の如く一度動いただけで停止となっ
           ては困るぞ
        李儒:ご安心を 前回の事は予定の内にございます
        董卓:しかしのう・・・
        李儒:後ほど二回目の動作試験を行います故、それを見れば殿のお気持ちも変
           わりましょうぞ・・・さ、着きました

        (通路の端まで辿り着いた董卓と李儒)
        (行き止まりの壁には大きな扉が立ち塞がっている)
        (李儒は扉の取っ手に手をかけ、力を込めて開く)

        (ゴゴゴゴ・・・扉が重厚な音を立てて開かれていく)
        (扉が開くと通路の空気が部屋に流れ込んでいく)

        (李儒は扉を半分ほど開いた所で取っ手から手を離す)
        (扉の奥は真っ暗な部屋)
        (部屋の中は通路の灯りが射し込む部分だけ照らされている)
        (董卓と李儒、部屋の奥を見つめているが、蝋燭の灯りは届かない)
        (奥の壁に何かが潜んでいるようだが、闇に隠れて見る事はできない)

        董卓:今は大人しいな
        李儒:はい 封印を重ねて厳重に押さえつけてある故、今は安全です
        董卓:御する術はどうなっておる? あの時は結局、勝手に動き回っただけで
           あろう まして余にその牙を向ける様な事あらば話にならんぞ
        李儒:その点については抜かりなく
        董卓:何としても早く実戦で使えるようにせよ さすれば、我が勝利は揺ぎ無
           きものとなる
        (李儒、頭を下げる)
        李儒:心得て御座います・・・では早速作業に入ります
        董卓:うむ


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        シーン2 張遼の自宅(リビング・その1)
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        (相変わらず降りつづける雨)
        (晴れの日なら夕方の時刻だが、雨天のせいで薄暗い)
        (ある集合住宅の外観が映される。あちこちの部屋の窓に明りが灯っている)
        (部屋の一つに接近すると中が見える。部屋の床は綺麗に磨かれた板張り)
        (部屋にはテーブルが一脚あり、ソファー二脚がテーブルの辺に沿ってLの字
        に並べられている)
        (他にもテレビが一台、テーブルを挟んでソファーと反対側置いてある)

        (張遼、ソファーに座っている。部屋には張遼しかいない)

        (テーブルの上にはマグカップが二つ置かれている)
        (カップの一つは張遼の前に置かれ、もう一つは張遼に対して直角向きにある
        ソファーの前に置いてある)
        (カップにはチョコレート色の液体が注がれている。どちらのカップからも湯
        気が立ち上がり、まだ暖かい事がわかる)
        (張遼はカップには手をつけず、何か考え事をしている)

        張遼:・・・さて、どうしたものかしらね・・・?

        (そう呟くと張遼はしばらくそのまま動かない)

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        シーン3 張遼の自宅(浴室)
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        (浴室の中は湯気に包まれていてあらゆる物がぼやけている)
        (壁は明るい色のタイル張り)
        (室内等が湯気に包まれ柔らかい光で浴室を照らす)

        (浴槽の中で湯船に浸かっている呂布)
        (呂布は肩まで湯に入っている)

        (呂布、冴えない表情で揺れる水面を見ている)
        呂布:・・・

        (呂布の脳裏に陳宮との会話が思い出される)

        陳宮:『騙すつもりはありませんでした でも・・・今まで隠して来たのは事
           実です』

        (呂布の表情が曇る)

        (呂布は湯船により深く身を沈め、口元まで浸かる)

        (ザブリ)
        (湯面が揺れる)

        (呂布の目元に涙が滲む)
        呂布:うっ・・・
        (呂布、食いしばる)
        (すると両手で湯をすくって自分の顔に何回もかけ、涙を洗い流そうとする)

        (呂布の頭にも湯はかかり、その水滴が前髪から落ちる)
        呂布:・・・
        (しばらく動かない呂布。対照的に湯面は大きく揺れる)

        (やがて呂布はゆっくりと湯船から立ち上がり湯船から出る)
        (呂布は備え付けの鏡の前に立ち、自分の姿を見る)

        (鏡に映る呂布の姿)

        (沈んだ表情の顔)
        (首から肩にかけて滑らかに輪郭がつながり、そこから腕、腰、脚と全身を形づくる)
        (呂布の身体はまだ起伏に乏しいが、全体的にその肌は白く綺麗である)
        (伸びやかな手足は健康的な印象を与える)

        (呂布の前髪から水滴が垂れ、額、頬、顎を伝って胸に落ちる)
        (膨らみかけの左右の胸の頭頂部には桜色の乳首が小さく可愛らしく乗っている)
        (腰もまだくびれておらず、腹部を水滴がすべり落ちていく)
        (すべり落ちた水滴が股間に達するが、そこもまだ何も生えていない)
        (太ももを滑り、脹脛を滑って床に落ちる水滴)

        (呂布、ため息を大きな一つ)


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        シーン4 張遼の自宅(リビング・その2)
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        (張遼はまだ座ったまま、まだ何か考え事をしている)

        (すると部屋の扉が開き、湯上りでパジャマ姿の呂布が現れる)
        (呂布の顔はほんのりと赤くなっていて、髪が濡れている)
        (呂布は頭をバスタオルで拭きながら部屋に入ってくる)

        (呂布、おずおずと張遼に礼を言う)
        呂布:あの、張遼さん ありがとう・・・おかげでからだがあたたまった

        (張遼、呂布の声で我に返る。呂布の方を見てにこやかに話し掛ける)
        張遼:そう、良かった パジャマのサイズはどうかしら?
        呂布:だいじょうぶ・・・かな あ、それとでんわもかしてくれてありがとう
        張遼:お家の人と連絡ついた?
        (呂布、頷く)
        呂布:うん おふろにはいるまえに『張遼さんのうちへよりみちしていくから
           おそくなる」っていっておいた

        (張遼は手を差し出して呂布に席を勧める)
        張遼:まあ座って ココアを淹れておいたの 良かったらどうぞ
        呂布:あ、どうも・・・

        (呂布、カップの位置にあるソファーに腰を落とす)
        (呂布は座ると両手をカップに伸ばす)
        (片手でカップの取っ手を持ち、もう片方の手を反対側に添える)

        (呂布の様子を見ている張遼)
        張遼:熱いから気をつけて
        呂布:うん
        (呂布は数回、ココアの表面に息を吹きかけて冷ます)
        (そしてカップを口元に運び、ちょっと熱そうにココアをすする)
        (二口ほどココアを飲んだ呂布)
        呂布:あー あったくて、おいしい・・・
        (少し呂布の表情が緩む)

        張遼:呂布さん あなたの服だけど、さっきお洗濯終ったわ でも乾くのはま
           だ時間がかかると思うからそれまで待ってくれる?
        呂布:うん・・・なにからなにまでおせわになって
        (張遼、顔の手を振って、呂布を制す)
        張遼:いいのいいの 私が勝手にやった事だから、気にしないで
        (張遼、呂布にウィンクしてみせる)
        呂布:うん、ありがとう・・・

        (張遼は呂布には聞こえない様に小さな声でポツリと言葉を付け足す)
        張遼:それに、今回の事の原因・・・私も無関係じゃないから
        (案の定、聞こえなった呂布)
        呂布:え? なにかいった?
        張遼:ううん、何でもないわ

        (張遼もカップを口元に運び一口飲む)
        張遼:それで少しは落ち着いたかしら?
        (呂布、力のない笑顔を浮かべる)
        呂布:あ、うん おかげさまで
        張遼:そう・・・
        呂布:・・・

        (しばらく両者の沈黙が続く)
        (窓の外から激しく雨が古音が聞こえる)

        (張遼、唐突に真剣な表情で尋ねる)
        張遼:それで、一体何があったの?
        (呂布、両手で持っていたカップをテーブルに置くと俯いてしまう)
        (表情が再び暗くなる)
        呂布:それは・・・その・・・
        (黙り込んでしまう呂布)
        呂布:・・・
        張遼:・・・

        (張遼もカップをテーブルに置く)
        張遼:何か言いにくそうね・・・それじゃ、先に私の事から話しておこうかな
           屋上の話は聞いてたんでしょ?
        (呂布、慌てて顔を上げ、取り繕うように喋る)
        呂布:あ、あの わたし、おくじょうのことはきくつもりはなかったの・・・
           ごめんなさい でも、わたしにもかんけいがあることだったから、つい

        (張遼、軽い調子で喋る)
        張遼:あー、その事なら別に気にしてないわ 遅かれ早かれ、あなたにバレる
           と覚悟はしてたから 私が言いたいのは別の話よ
        (呂布、きょとんとした顔で目をしばたかせる)
        呂布:ふぇ・・・? じゃあ、なに?
        張遼:うん さっき公園であった時、私の事を恆の手下だと思ってたでしょ?
           その辺りの事、誤解されたままじゃ嫌だから
        呂布:そう・・・


        (張遼は自分の膝の上で両手の指を組む)
        張遼:公園でも言ったけど、私はもう恆の手下とかじゃないの これからも
           恆に力を貸す気はないわ
        呂布:・・・
        張遼:それに私、初めから好きで董卓に従ってた訳じゃないのよ
        呂布:あの 張遼さん それならなんで董卓にしたがってたの?
        張遼:えっと、ね・・・
        (張遼は一瞬、迷いの表情を浮かべるが、すぐに元の表情に戻り話し出す)

        張遼:実は以前に一度だけ、董卓に助けられた事があったの・・・ その恩が
           あって、仕方なくね
        (呂布、驚いて聞き返す)
        呂布:たすけた!? 董卓が!?
        張遼:うん 今考えると単に気まぐれか、偶然だったとしか思えないけど
        呂布:いったいなにがあったの
        張遼:うん・・・私が前にあそこの山、あなた達が『裏山』って呼んでる所を
           通った時の事なんだけど あそこでちょっと道に迷った事があったの

        (呂布は妙に感心して言う)
        呂布:へぇ 張遼さんでもみちにまようんことがあるんだ・・・けっこういが
           いね
        (張遼、少し恥ずかしそうに答える)
        張遼:あ、あの時はまだこの辺り地理に詳しくなかったから・・・
        呂布:ふぅん それで、どうしたの
        張遼:あの山って崖があるでしょ? 私、迷っている内にその下側に出ちゃっ
           て・・・それで困って立ち止まっていたら突然、地鳴りがしたの 『あ
           れ?』って思って上をみたら・・・大きな岩が降って来たのよ

        (呂布、目を見開いて驚く)
        呂布:えっ! そんなあぶないことがあったの!?
        張遼:うん その時は足がすくんで動けなくなって、怖くて目を閉じたの
        (呂布、張遼の方へ身を乗り出す)
        呂布:それでどうなっちゃったの
        張遼:次の瞬間に何か大きな音がしたの 私は動けずにしばらく目を閉じたま
           までいたんだけど、いつまでも身体に何の衝撃も伝わって来ないから恐
           る恐る目を開いてみたら・・・
        呂布:どうだったの?
        (張遼はカップに片手を伸ばす)
        張遼:頭上の岩がなくなってた その代わり、少し離れた所に砕かれた岩の破片
           が落ちてたの
        (張遼はカップを口元に運び一口飲む)

        呂布:うーん・・・それってほんとうにあったこと? もしかしてなんかのけ
           いりゃくだったんじゃない?
        (張遼、ちょっと困ったような表情になる)
        張遼:まあ、信じられないのは無理ないか 私だってあの時は信じられなかっ
           たし
        呂布:べつにそういうわけじゃねいけど・・・ごめん、はなしをつづけて
        (呂布、ソファーに座りなおす)

        (張遼また一口、ココアを飲む)
        張遼:で、驚いて呆然としている所へ恆と李儒がやって来たの 最初あの2
           人は何か話し合いながら歩いてきてた それで私の姿を見つけて恆と
           李儒もちょっと驚いてたみたいだった・・・
        呂布:それで?
        張遼:その時、李儒が何か恆に耳打ちしてたかな? そしたら恆が『危な
           い所であったな。この余の力あってこそ、今そなたは救われたのである』
           なんて言って来て・・・それから恆に従うようになったの
        呂布:そんなことがあったの
        (呂布もカップに手を伸ばす)

        張遼:そういう事で不本意ながら恆には借りがあったという訳
        呂布:でも、それってほんとうに董卓がたすけてくれたの?
        張遼:うーん・・・
        (張遼、首を傾げ頬に人差し指を当て考えるポース)
        張遼:そうなのよねぇ・・・でも周りには他に誰か居る気配も無かったし、岩
           が自然に砕ける訳もないし、もちろん私にそんな力はないし、消去法で
           董卓か李儒になっちゃうのよね
        (張遼、肩をすくめる)
        張遼:でもすぐに恆がああいう奴だって解ったから、最低限の指令だけ聞い
           て、後はなるべく関わらないようにして来たけどね
        呂布:・・・
        張遼:何回か『自分から恆の所を出ようかな』って思った事もあったんだけ
           ど、恆に借りがあるのが気になってどうも踏ん切りが付かなかくて
        呂布:ふぅん・・・・

        (呂布、ココアを口元に運ぶ。だが途中でその手を停める)
        (呂布は首を傾げて問い掛ける)
        呂布:あれ? 張遼さん、いまはなんで恆にしたがってないの? じぶんか
           らはぬけださなかったんでしょ

        (張遼、言葉を選びながら答える)
        張遼:私・・・今は他の勢力に捕まって降参した、という事になってるの
        呂布:あ・・・その、もしかして陳宮クンのところ?
        張遼:まあ、ね
        呂布:そう・・・
        (複雑な表情の呂布)
        呂布:ねえ、それって恆からべつのところへつかえるあいてをかえたの?
        張遼:そういう訳でもないの 降参してもすぐに解放されたから、今は無所属
           って言うのかな
        呂布:そうなんだ・・・


        張遼:そういう訳で今の私は少なくともあなたの敵ではない、という事 どう?
           信じてもらえそうかな
        呂布:・・・
        (呂布は探るような目つきでと張遼をジロジロと見る)
        張遼:・・・
        (張遼は座ったまま呂布の視線に臆する事なく堂々としている)
        呂布:(おくじょうのはなしからむじゅんしてないし・・・ほんとうのことみ
           たいね)

        (呂布、張遼を普通の目に戻る)
        呂布:わかった とりあえずしんじる ここまでおせわになったし、いまのは
           なしもうそでもないみたいだし
        (張遼は小さく笑う)
        張遼:ふふっ ありがと
        (二人ともココアを飲む)

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        シーン5 大通りの側にある電話ボックス
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        (薄暗い時間になったが雨はまだ降り止まない)
        (大通りを車がワイパーを左右に動かしながら通り過ぎていく)
        (その比較的広い歩道に電話ボックスが設置してある)

        (歩道を走ってくる陳宮)

        陳宮:(参りましたね・・・一体どこに行ってしまったんでしょうか)

        (陳宮は傘を2本持っており、うち一本を開き、もう一本は閉じたまま手に持
        っている)
        (閉じた傘の色は桃色)

        陳宮:(傘を取りに一旦帰ったの失敗でしたかね? その間に呂布さんはどこ
           かまた別の所へ行ってしまったとか・・・)

        (電話ボックスの脇を走り抜けようとちした陳宮、そこで一旦立ち止まる)
        (陳宮、電話に注目する)

        陳宮:(ダメかも知れませんが・・・やってみましょう)

        (電話ボックスの中に入っていく陳宮)
        (陳宮は片手に受話器を持ち、テレホンカードを電話機に差し込む)
        (何かのメモを見ながらプッシュボタンを押す陳宮)

        (陳宮の脇には2本の傘が閉じた状態で立てかけられている)
        (傘の先端から水が滲んでボックス内の床を湿らせる)

        (電話が繋がったらしく陳宮が受話器に向かって喋る)
        陳宮:もしもし 僕は呂布奉先と同じクラスの・・・


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        シーン6 張遼の自宅(リビング・その3)
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        (張遼、カップを机に戻して、脚を組む。張遼の白い脚がチラリと見える)
        張遼:それじゃあ、次は今度はそっちの事を話して貰える? あんな所でどう
           したの?
        (呂布、途端に表情が暗くなる)
        呂布:えっ・・・う、うん えーとね それはね・・・
        (カップを両手で弄ぶ呂布)

        張遼:(やれやれ・・・)
        (見かねた張遼、単刀直入に問いただす)
        張遼:陳宮くんと何かあったんじゃない? 違う?
        (驚いて顔を上げる呂布)
        呂布:えっ!?
        張遼:やっぱりね
        (納得して頷く張遼)

        呂布:ど、どうしてわかったの?
        張遼:屋上の話は聞いていたんでしょ? だったらある程度見当がつくわ
        呂布:・・・
        張遼:それに、 タイミングを考えたら普通は気付きそうなもんでしょ?
        呂布:あ、そうなんだ・・・
        (呂布、納得して再び俯いてしまう)
        張遼:ごめん、ちょっと意地悪だったわね
        (首を左右に振る呂布)
        呂布:ううん いいの

        (呂布、一旦深呼吸する)
        (そして俯いたままポツリポツリと語りだす)
        呂布:あのね、こうじげんばのあとちにいったとき 陳宮クンのはんかち、み
           つけたの そのときから、なんかおかしいなっておもってた・・・
        (張遼、跡地での出来事が思い当たる)
        張遼:(あ、もしかしてあの時かしら?)
        (呂布、カップを机に置く)
        呂布:そのつぎにね、ほけんしつにはこんでもらったとき 恆のやしきでわ
           たしをたすけてくれたのが 陳宮くんだったこと、おもいだしたの
        張遼:・・・
        (張遼は呂布を見つめている)

        呂布:それでかえりにね、おもいきって陳宮クンにたずねてみたの 『あなた
           はいったいなにものなの?』て
        (呂布の表情が更に暗いものへと徐々に変わっていく)
        呂布:そうしたら、陳宮クンもぎゆうぐんのひとりだって ぎょくじをねらっ
           ているひとりだっていわれたの
        (呂布は膝の上で拳を握り締める)
        呂布:わたし、陳宮クンにいままでだまされたっていうか、うらぎられたよう
           な・・・そんなきがして そうおもったら、きゅうにかなしくなって
        (呂布、それ以上言葉が続かない)
        (呂布の手の甲に涙が落ちる)

        (張遼、真剣な表情で問い掛ける)
        張遼:ねぇ あなたは本当にそう思う?
        (呂布、顔を上げる。目尻には涙が滲んでいる)
        呂布:えっ?
        張遼:今までの事が本要に、全部ウソだったと思うの?
        呂布:それは・・・おもいたくない・・・けど
        (張遼は妙に自信に満ちた声で言う)
        張遼:私は少なくとも全部がウソだった、とは思わないわ
        呂布:どうして? どうしてそうおもえるの?
        張遼:そうね・・・
        (張遼、口元に人差し指を当てて何か考える)
        張遼:ねぇ呂布さん あなたは今までに何回か董卓の手下と勝負した事があっ
           たでしょ? 例えば裏山で赤兎馬と一緒に李粛に追われた時とか

        呂布:あ、うん そうだけど・・・ ちょっとまって
        (呂布、張遼の話に違和感を感じる)
        呂布:張遼さん、なんでそのことしってるの? うらやまのときは まだてん
           こうしてきてなかったはずよ?
        張遼:それは簡単 董卓の所に居た時にね、あなたとの間で何か騒動が起きると
           恆に報告されてくるのよ その話を横で聞いてただけ
        呂布:そういうこと・・・それじゃあ赤兎ちゃんのこともしってるのね
        張遼:ええ

        張遼:続けるわね あの時、裏山にはあちこちに人が居るように見せかける偽
           装工作がされていて、それで結局李粛は引き返したんだけど・・・
        呂布:ん? まえにもそのことをどこかできいたような・・・
        (呂布、その言葉を聞き赤兎の言葉を思い出す)

        赤兎:『山の中を捜して回ってる時に、”擬兵の計”の跡を見つけたの』
        呂布:『ぎへいのけい?』
        赤兎:『簡単に言うと誰かが潜んでいるように見せかける作戦なんだけど・・・』
        (呂布、思わず声を出す)
        呂布:あ・・・


        張遼:思い当たる事があるみたいね
        呂布:そういえば、まえにきいたおぼえがある
        張遼:それ以外にも董卓の方からあなたに手を出そうとしたらいつも必ず妨害
           が入るの あなたは気が付いてなかったかも知れないけど、裏山の時か
           らずっとね
        呂布:・・・どういうこと?
        張遼:もう少し具体的に言うと、史跡公園では城壁跡の出入り口、つまり一度
           に一人しか通れない狭い通路に恆の家来は誘い込まれ、出口で呂布さ
           んに待ち伏せされ返り討ちにされた

        張遼:次にあなたが董卓の屋敷に連れて行かれた時も何者か屋敷内に侵入して、
           いいえ、あれは彼ね 彼が侵入して呂布さんを外に連れ出した
        (呂布、無言で聞き入る)
        呂布:・・・
        張遼:道端で関羽ちゃんと張飛ちゃんに攻撃された時があったでしょ?
        (呂布、無言で頷く)

        張遼:あれって実は恆の指令で私が仕方なく仕掛けたの
        呂布:あなたのしわざだったの?
        張遼:ごめんなさい でもまだ話の続きがあるの
        呂布:・・・

        張遼:すぐに劉備さんが止めに入ったでしょ? 誰かが劉備さんに止めに入る
           よう連絡したに違いないわ
        呂布:・・・
        張遼:まだあるわ 実は建設現場跡地にも陳宮くんが現れた あの時は一旦私
           が彼を捕まえて・・・まあ最終的には私が助けられたんだけど・・・と
           にかく、もし見逃してたら間違いなく董卓の邪魔をしてた というより
           も呂布さんを助けようとしたんじゃないかしら

        (呂布、愕然とする)
        呂布:まさか・・・!?

        (張遼、一呼吸置いて答える)
        張遼:・・・少なくとも今言った事は間違いなく彼がやった筈よ 他にもまだ、
           私達が知らないだけで何かあると思うし・・・
        (呂布、黙り込む)
        呂布:・・・
        張遼:陳宮くんが本当に玉璽だけを狙っているなら、わざわざ何回もあなたを
           助けたりすると思う? 自分が危ない目に遭う危険を冒してまで本当に
           そんな事すると思う?
        呂布:・・・
        張遼:玉璽が目的なら、そんな事する訳ないわ
        呂布:じゃあ、なんでいままでわたしをたすけてくれたり、それなのにだまっ
           てたりしたの・・・?
        張遼:それは・・・陳宮くんが・・・
        (張遼は何か言おうとして思いとどまる)
        張遼:(陳宮くんは呂布さんだから助けたの? 呂布さんでなく、私だったら?)

        張遼:・・・そうね、彼にも何か言いづらい事情があるんじゃないかしら?
        (張遼、寂しそうに目を伏せる)
        張遼:(陳宮くんは、恆から私を助けてくれたけど・・・それって結果的に
           そうなっただけなの?)

        張遼:呂布さん あなたが今までやってこられたのは、全部自分の力だけだと
           思ってるの?
        呂布:それは・・・
        張遼:あなた以外の誰かが支えてくれたから、あなたは自分の持つその力を発
           揮する事が出来たのよ
        (張遼、なぜか悲しそうな顔をする)
        張遼:(そう、彼が支えるのは私じゃない・・・)

        (辛くなった張遼は気を紛らわす為、時計を見る)
        張遼:・・・あっ、そろそろあなたの服が乾く頃かな? ちょっと見てくるね
        (やるせなくなって席を立つ張遼。扉の前まで行きノブに手を掛ける)
        呂布:あの、張遼さん、私・・・
        (呂布に呼び止められ身体がピクンと震える張遼)
        (張遼、振り返って精一杯、優しく笑みを浮かべる)
        張遼:お礼なら別にいいから
        (部屋を出て行く張遼。バタンと扉を後ろ手に閉める)

        呂布:(そんなこと、いままで、ぜんぜん、かんがえもしなかった)
        呂布:(よくかんがえたら、ううん、かんがえるまでもなくあたりまえのこと
           かもしれなかったのに)
        呂布:(それなのに、わたしったら・・・あのとき、陳宮クンは『まってくだ
           さい』っていってたのに)

        (呂布、張遼が出て行った後の扉に向かって言う)
        呂布:・・・ありがとう・・・


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        シーン7 張遼の自宅(脱衣所→玄関)
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        (脱衣所には洗濯機、乾燥機等が並んでいる)
        (乾燥機に向かって歩く張遼)
        (張遼の歩き方にはどことなく元気がない)
        (張遼が歩く度にペタン、ペタンとスリッパが床を叩く音がする)

        張遼:・・・
        (無言で乾燥機を見つめる張遼)
        張遼:(あーあ・・・私、何やってんのかな・・・)
        (張遼、ブルブルと頭を振り、両手で軽く自分の頬を叩く)
        張遼:(えーい! 気持ち切り替えなきゃ!)

        (張遼、乾燥機のタイマーを見て、機会が停止している事を確認する)
        張遼:(そろそろいいと思うんだけど)
        (張遼は乾燥機の蓋を開け、中に手を突っ込み服を取り出す)
        張遼:(どうかな・・・?)
        (張遼、服のあちこちをって確かめる)
        張遼:(うん、大丈夫 もう乾いてる)
        (張遼、呂布の服を丁寧に折り畳んで脇に置いてある籠の中に入れていく)

        (張遼、折り畳む手を休めてふと、また物思いに耽る)
        張遼(ある意味チャンスだったのかも知れないのに あのまま放って置けば今
           ごろは・・・)
        (張遼、そこで我に返って考えを打ち消す)
        張遼:(そ、そうじゃないでしょ! な、何考えてんのよ、私!)
        (張遼、溜め息をつく)
        張遼:(あー 考える事がセコくてやだなぁ こんなんだから私って・・・)
        (そこへ呼び鈴が鳴る)

        (ピンポーン)

        張遼:あ、はーい 今出ます・・・誰かしら?
        (張遼は脱衣所から玄関に続く廊下を小走りで通り抜ける)
        (廊下には張遼の足音がパタパタと鳴り響く)

        (張遼は玄関に着くとサンダルに履き替える)
        (張遼、鉄扉のノブに手を伸ばし、押し開く)
        張遼:はーい、どちら様で・・・あっ! 陳宮くんっ!?
        (扉の外には陳宮が立っている)
        (陳宮は濡れた傘を2本持っている。その内1本は呂布の傘)
        (張遼、目を見開いて驚く)

        (陳宮は非常に申し訳なさそうに言う)
        陳宮:すいません、突然お邪魔して・・・
        張遼:あ、えーと・・・い、いいの それより突然どうし・・・

        (張遼、ハッと息を呑んで陳宮から目を逸らす)
        (張遼は顔を伏せて寂しげな目をする)
        張遼:(やっぱり呂布さんを捜しに来たんだよね・・・)

        (張遼、笑顔で陳宮を見る。その笑顔はどこか痛々しい)
        張遼:呂布さんの事、でしょ? ね、そうでしょ?
        (陳宮、張遼の表情の変化には気付かずに普通に答える)
        陳宮:あ、はい・・・そうですけど、張遼さん?
        (張遼はやたら明るく振舞う)
        張遼:そっかそっかー! やっぱりね! うんうん! 呂布さんなら中にいる
           わ ちょっと待ってね

        (張遼、廊下の奥の方へ向かって呼びかける)
        張遼:呂布さーん!
        (奥の方から呂布の声がする)
        呂布:はーい・・・なにー?・・・
        (リビングの扉が開き、呂布が半身を出す)
        呂布:張遼さん、どうし・・・あっ!
        (呂布、陳宮を見て固まる)
        (陳宮、バツが悪そうにぎこちない笑顔を浮かべる)
        陳宮:や、やあ どうも・・・

        呂布:あ、あうぅ
        (呂布は赤くなって扉の陰に隠れてしまう)
        陳宮:あっ・・・
        (張遼、陳宮に苦笑い)
        張遼:あは、あはは・・・あ あの、ちょっと待ってね、今見てくるから!

        (張遼、呂布の側にパタパタと駆け寄る)
        (呂布は小さくうずくまって隠れている)
        (張遼、呂布の肩に手をあてて小声で話し掛ける)
        張遼:一体どうしたのよ!?
        (おずおずと答える呂布)
        呂布:あ、あの わたし、いま ぱじゃまだから・・・は、はずかしいよぅ 
           それに、さっきあんなことがあったばかりだし、なんか、その、きまず
           いっていうか・・・
        張遼:な、何言ってんの 仲直りするチャンスじゃない!
        呂布:ふぇ〜 でもぉ
        張遼:陳宮くんにちょっと待って貰うから、その間に着替えること! いいわね?
        呂布:うぅ〜 わかったよぅ・・・


        (張遼、再び玄関に出向く)
        陳宮:あの、今はまずかったですか?
        張遼:そんな事ないから、気にしないで それより悪いんだけど、ちょっと外
           で待ってくれる?
        陳宮:あ、はい・・・
        張遼:呂布さん、今パジャマなの これからすぐ着替えるから・・・だから申
           し訳ないんだけど願い!
        (張遼、陳宮に両手で拝む)

        (陳宮、張遼の勢いに気圧される)
        陳宮:わ、わかりました
        張遼:ありがとっ!
        (張遼、すぐ中に引き返して一旦鉄扉を閉じる)

        (呂布はリビングの扉の陰から頭だけ出す)
        呂布:どう?
        張遼:いいわ、呂布さん! 今のうちに着替えて!
        呂布:う、うん
        (呂布は廊下を走り抜け脱衣所へ飛び込む)
        (脱衣所の内側かた扉が閉められ、中からゴソゴソと衣擦れの音がする)
        (張遼、呂布が脱衣所に入った事を確かめるとまた玄関へ向かう)

        (張遼、鉄扉を開く)
        (先ほどと変わらぬ様子で陳宮が立っている)
        張遼:ごめんね! 待たせちゃって
        陳宮:いえ、気にしてませんから それより一つ、訊いていいですか?
        張遼:何?
        陳宮:もう、呂布さんからは聞いたんですか
        張遼:え・・・うん まあ、ね
        (暗い顔になる陳宮)
        陳宮:そうですか・・・
        張遼:(やっぱり呂布さんが気になるのね
        )
        (張遼は何かをグッと堪えてまた明るく振舞う)
        (張遼、必死で喋る)
        張遼:な、何? どうしちゃったの? だ、大丈夫よ! 私が話して、き、き
           っかけは作っておいたから! 後はあなた次第よ! えっと、その・・
           ・がんばって、ね・・・
        (言葉の最後の方には力がなく、消え入りそうになる)

        (張遼の様子に気付く陳宮)
        陳宮:張遼さん? 何かあっ・・・
        (張遼、陳宮が話かけようとするのを遮るように声を出す)
        張遼:あーっ! も、もうすぐ呂布さんが着替え終わるんじゃないっ?

        (そこへ丁度良く呂布が脱衣所から廊下に現れる)
        呂布:あの・・・陳宮クン・・・えーと、ええっと
        張遼:ホラホラ! わ、私の言った通りでしょっ!? 私ってもしかしてスゴ
           イのかも〜? な〜んてね、あは、あははっ!
        呂布:張遼さん、いろいろとありがとう・・・
        張遼:ううん そんなの全っ然いいから! 気にしないで! さ、呂布さんこ
           っち来て!
        呂布:え うん
        (呂布、玄関に向かって歩いて行く)

        (張遼、呂布が手の届く範囲にまで来ると急に手を伸ばして呂布の腕を掴む)
        呂布:ひゃんっ!?
        張遼:陳宮くんがお待ちかねよ!
        呂布:えっ?
        (張遼は呂布をそのまま引っ張って陳宮に引き合わせる)

        (呂布と陳宮は急に向かい合ったので声が出ない)
        (見つめ合う呂布と陳宮)
        陳宮:・・・
        呂布:・・・
        陳宮:・・・あ
        (陳宮、何か口を開きかけたがまた張遼が遮る)

        張遼:はーい はいはい! 続きは外でお願いね!
        呂布:え?
        (張遼、呂布と陳宮の背中を押して追い出すように外に出す)
        (声は元気だが張遼の顔は俯いている)
        呂布:あの、張遼さん?
        陳宮:ちょっと、一体なんですか
        (無言でグイグイと押しつづける張遼)
        (張遼は完全に玄関の外まで押すと鉄扉のノブに手をかける)


        (張遼、無理に笑顔を作る)
        張遼:呂布さん! 忘れ物ないわね?
        呂布:あ、うん
        張遼:それじゃ、二人とも気をつけてね! また明日! バイバーイ!
        (張遼、そう言うと一方的に扉を閉めてしまう)
        (締め出された呂布と陳宮、あっけに取られたまま顔を見合わせる)
        (しばらく無言)
        呂布:・・・
        陳宮:・・・

        (やがて呂布が口を開く)
        呂布:陳宮クン・・・おそと、いかない?
        陳宮:はい・・・

        (二人とも歩き出す)
        (集合住宅の廊下に二人の足音がする)

        (陳宮、一旦立ち止まり張遼が閉ざしてしまった扉を振り返る)
        陳宮:・・・
        (呂布、陳宮につられて立ち止まる)
        (陳宮を見る呂布はその様子に首を傾げる)
        呂布:ん?

        (呂布、陳宮を呼び止める)
        呂布:陳宮クン?
        陳宮:・・・はい、今行きます
        (二人とも再び歩き出す)

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        シーン8 張遼の自宅(玄関の内側)
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        (張遼、背中から鉄扉に寄りかかって立っている)
        (張遼、俯いたままでその表情は見えない)

        (呂布と陳宮の足音が聞こえる)
        (足音は一旦立ち止まり、再び歩き出す)
        (やがて足音は遠ざかり聞こえなくなる)

        張遼:・・・

        (張遼、音が聞こえなくなると背中から滑り落ちる)
        (そのまま鉄扉の前に座り込んでしまう)
        (張遼、両手で膝を抱えこんで天井に顔を向ける)

        (自嘲気味に独り言を呟く)
        張遼:あ〜あ、何やってんだろ 私は・・・フフッ・・・

        (今度は膝に顔を埋める)
        張遼:・・・自分で解ってるつもりなのにね・・・

        (しばらくして張遼の肩が小さく震え出す)
        張遼:・・・う うぅ・・・
        (張遼の小さな嗚咽が静かな玄関に響く)

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        アイキャッチ
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